大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)1548号 決定

上告人 金倉正吉こと 金昌弼

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人藤井英男の上告趣意は違憲をいうが、原判決は記録並びに原審における事実取調の結果を斟酌してそこに現われた本件の罪質、犯行の動機、態様、被告人の性行経歴環境並びに犯行後の情況等量刑の基礎となるべき一切の資料を綜合して第一審の量刑に不当はない旨判示しているのであり、所論は原判旨に副わない事実を前提とするものであつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俟郎)

昭和三〇年(あ)第一五四八号

被告人 金倉正吉こと 金昌弼

弁護人藤井英男の上告趣意

右の者に係る児童福祉法違反被告事件につき、弁護人は左の通り上告趣意を述べる。

第一点原判決は憲法第二七条第三項の解釈を誤り、被告人を重き刑に処したものであつて破棄を免れない。

一、原審は刑の量定に関する第一審の判決を正当し控訴を棄却したが、第一審おいて被告人に懲役八月の実刑を科したのは、その根底において、被告人の本刑行為が憲法第二七条第三項に違反する悪質のものと判断したからに他ならない。(第一審判決理由中、「およそ児童を酷使してはならないことは憲法の保障するところであつて」以下の記載)

二、ところが我国の憲法は、ワイマール憲法第二二条や世界人権宣言第二五条の如く、児童の福祉の一般的保護や積極的保護を規定したものではなく、単に児童の労働に関して、その「酷使」を禁止したに止まる、このことは憲法第二七条「が勤労の権利義務」を根本的に規定したものであり、第三項が勤労関係における児童の「酷使」を禁止した規定の地位並びに児童労働禁止の沿革上の理由からこれをみれば明らかである。

三、それ故憲法違反になるのは労働関係における児童の酷使であつて、それ以外に、児童の福祉に反する行為をも、すべて憲法違反であるかのごとく、裁判所が軽々しく云々すべきものではない。ところが第一審は判決理由中に、被告人の本件行為がいかにも憲法違反の悪質のものなるかのごとき理論を展開し、かかる観点から被告人の刑を量定したものであることは右判決自体から明らかであつて、これを支持し「原判決の刑の量定が所論のように不当に重過ぎるものとは到底考えられない」とした原審判決も亦憲法第二七条第三項の解釈を誤り、刑の量定について判断したものであると云はざるを得ない。

四、よつて原判決は、憲法の解釈を誤まつたものであつて、破棄を免れない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例